野田ともうします。第1巻|柘植文
群馬県出身、埼玉県在住。趣味は読書。独特のセンスの持ち主で、日常にひそむ面白みをにゅるりと発見、じわじわ味わう。そんな地味女子・野田さんの日常を描いたショートコメディ。
7巻完結の作品です。
感想
第1巻の中でおススメのストーリーは、
- その13 野田さんの本当にあった怖い話
- その15 フタを閉めないでください
- その24 キリマンジャロの豹(ひょう)
おススメ① その13 野田さんの本当にあった怖い話
野田さんの怪談話の切り口が独特すぎるお話で、一気に「野田さん」という思考回路を見せつけられるお話。
タイトルの「本当にあった」というところに注目。
本当にあったというくらいだから、現実的なオチが素晴らしい。
場面は、野田さんが大学で所属するサークル「ブラックハンド」のメンバーと雑談しているシーン。
そもそもこのサークルすら面白い設定なのですが、今回は話が逸れてしまうので割愛します。
サークル内で、野田さんが本当にあった怖い話を始めたところ、なんか( ^ω^)オチが絶妙にズレている・・・
「怖い話」って背筋がゾクゾク~っとするのを期待しますが、野田さんの話はなんかゾクゾクの種類が違う!笑
冒頭はかなり「怖い話的な」導入だったので期待している仲間たちも、最後まで聞くと納得のいかない顔。私も一緒。
でも、たしかに現実はこうだよな。そう上手く「本当にあった怖い話」次から次へと畳みかける用意がいい展開って実際ないよなぁ。っていう視点で笑わせてくれます。
要するに、野田さんの「怖い」というのが心霊現象の怖さではなくて、価値観の違いとか奇跡的なエピソードを「怖い」といっているのがズレの原因。
例えば、心霊現象とかの幽霊やおばけへの怖いという気持ちと自然現象とかやおろずの神への畏怖の念みたいな怖さは怖さでも種類が違うように、
野田さんが引っ張ってきたのは、自然現象や神への強い者への畏れみたいなもので、メッセージ性は強い!でもエンタメとしては弱い!って感じの面白であって、怪談話を楽しもう!というノリに投下するエピソードではないことは間違いない。
事前に怖いことはお約束でわかっていて、怖くなるテンプレ展開というものがあるのが怪談話の基本の型ですが、そのテンプレに乗ってこないから今ひとつ怖い話として成立していない野田さんの話。でも、落ち着いて考えると野田さんそのものが畏怖の対象。
おススメ② その15 フタを閉めないでください
フタって言うのはトイレのフタです。
このお話は、たまに会社のトイレで思い出してしまう傑作。
でも思い出したところでハッピーな気持ちになるわけではない。むしろ身構えるようなストーリー。
あまり語りすぎてしまうとお話の面白いポイントまで言及しなくてはいけなくなるので、これは実際に読んでもらいたいです。
おススメ③ その24 キリマンジャロの豹
野田さんの一人暮らしするアパートのベランダにどこからか空の段ボールが飛んできて、またどこかに飛んでいくのでは?という気がして3週間そのままにしているというところからスタートするお話。
まず、発端の段ボールがベランダに飛んできたという設定が素晴らしいです。
段ボール捨てるのめんどくさいあるあるをベースに、どこからともなく飛んできているという自分には捨てる責任はないという気持ち、でも捨てないことで自分のテリトリー(ベランダ)が占領されていて気になる感じ、設定の着眼点が面白くて、しかもキリマンジャロの豹(ひょう)に繋がっていくという。最高です。野田さんがベランダに飛来した空の段ボールを3週間も放置しているあたりがリアルです。
空の段ボールを自分が処分しなくてもまたどこかに飛んでいくのでは?というのは野田さんの期待と願望であって、野田さんだってそろそろ捨てないとなと薄々覚悟していると思うのですが、そんな現実に対して必死に抵抗した挙句、キリマンジャロの豹(ひょう)の話を持ち出してきます。
友人の重松さんの心の声ツッコミがキレイにまとめてくれるエピソードです。
ひと言
大好きな「野田ともうします。」第1巻から好きなエピソード上位の3つを紹介しました。読み返した時の気分で好きなエピソードのランキングが変わったりするので、何度読んでも面白いし、気付きがあるマンガです。
野田さんの独特のセンスにハマってしまうと止まらなくなる中毒性のある漫画で、この漫画を読むと日常のあれこれをちょっとしたエンタメにできちゃいます。そんな、じわじわ味わう系の漫画です。
「野田ともうします。」の切り口が面白いと感じた方は、セトウツミ(著:此元和津也)もおススメです。野田さんのナナメでシニカルな感じが、読んでいて共通している作品だと密かに感じました。
愛だの恋だの一切なしのちょっと文学的で哲学的な一冊。
普通の漫画に飽きたわ!って人は是非無料立読みしてみてください。